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目次


連載小説サラ金対新人OL

(注)この小説はフィクションであり、現実の人物、団体、法人には一切かかわりがありません。




第一回 佐藤直子の夢

(ああ、私は夢を見ている)

佐藤直子(さとう なおこ)は、自分が夢を見ているということが、はっきりと分かった。

佐藤直子は、どうも、かなりの高度の上空から大地を見下ろしているようだ。

視界の中で、野生の自然のままの河が、しばしば蛇行しながら流れている。


堤防とか、ダムとか、そんな、人間の手による造形は見当たらない。

河が大きく曲がったところに河原が見える。河原には葦が生い茂っている。

これも人間の手がまったく入っていない野生の葦の群生だ。


その河原に、ちらちらと光るものが見えた。

(なんだろう)

と思うと、佐藤直子は、急激に身体が落ちるような感覚を受けた。おそらく、高度数百メートルから、まっさかさまに落ちている。

(とまって、とまって!)

と、必死で念じる。夢だとわかっているはずなのに、そのまま地面に衝突するかと思って、すごくドキドキした。

さいわい、地面から5メートル程度の高さで、なんとか止まったようだ。

一息ついて、はじめて、まわりを見回す余裕がうまれた。自分の足の下に広がっている河原を、よく見てみた。そうしら、今度は、べつのことで驚いた。

葦の河原に、僧兵の集団がいる。

僧兵だとわかったのは、お坊さんが着る、いわゆる「袈裟」というもののうえに、高校の日本史の教科書に出てくるような、いわゆる「鎧」というものを着込んでいたから。

それに、大河ドラマの「義経」に出てくる「弁慶」という僧兵がもっている武器、棒の先に日本刀がついているような大きな武器、あれは…そう、ナギナタというのかな、それをもっていたから。

さっき、上空から、ちらちらと光って見えたのは、鎧とかナギナタが日光を反射する光みたいだ。

人数は、かなり多い。佐藤直子は、つい先日、4月に入社したばっかりの四菱商事での新入社員歓迎会で、大阪支店の全社員を前に新入社員を代表してスピーチしたばかりだ。

そのときに視界に入った人数と同程度か。

大阪支店の社員数は…たしか、1000人。そうすると、この河原にあつまっている人数も、おそらく1000人か。

ナギナタとか、弓矢とか、日本刀とか、いろんな武器で武装している。

その1000人が、全体的にゆっくりと、河のほうにむかって歩いていっている。

(えーと、これから、いわゆる「イクサ」をしようとするのね)

河は約50メートルくらいの幅だ。

河の流れも、この河原のあたりは浅瀬になっているようであり、あちこち川底から岩石が飛び出ている。

浅い分だけ流れは急だが、ぬれることを気にしなければ歩いて渡れそうだ。

河の向こう側もひらけた河原になっており、1000人くらいの人間がいる。

その1000人の集団は、どうも敵のようだ。眼光鋭く、こちら側をにらみつけており、弓矢をこちらに向けて発射する準備をしている。

自分の夢の中で、佐藤直子は、敵対する二つの集団が、河原で戦争をする直前にきてしまったらしい。佐藤直子がよく見る大河ドラマとして考えれば、時代背景は、いわゆる戦国時代ということになるのだろうか。

河原のこちら側の集団の、指揮官と思われる人物が、大声を張り上げた。

野外にもかかわらず、ものすごい音量だ。その声で、空気がビリビリと震えているのが、よくわかる。

「千手観音はあー、利息をー、制限するうーっ」

その大声に応じて、河原の、こちら側の集団が、全員で「おう」と声を張り上げる。

1000人が作り出す大きな声は、まるで、目に見えるすべての空間を制覇していくように、力強い。

その声は、河を越えてひびきわたる。遠目にも、河の向こう側の集団が動揺しているようすがわかった。

(やったー)

佐藤直子は、自分に利害関係がないにもかかわらず、なんだか、うれしくなってしまった。

しかし、一方で、「千手観音?」「利息?」いったい、なにを言っているんだか、さっぱり分からない。

だいたい、夢というのは、あとから考えれば理屈に合わず、わけがわからないものであることが多いと言ってしまえば、それまでだけど…

「われわれはあ、利息をー、制限しないいっ」

河の向こう側の集団の指揮官と思われる人物が、対抗して声をあげたようだ。

しかし、佐藤直子の感覚では、音量としても小さく、威圧感もないように思われた。なんだか、しかられた子供が、反抗しているような雰囲気すら、あった。

そして、その声がきっかけとなって、河をはさんで向かい合っていた集団の、それぞれの先頭が、河に足を踏み入れた。

最初は、ゆっくりと歩き、そして、だんだんと早足になり、大きく足を広げて、駆け足になった。

水しぶきがあがる。

先頭集団同士が、刀を抜き、ナギナタを振るい、戦闘を開始した。

たちまち、両方の集団の、先頭の、二、三人が、血しぶきを上げて、河にたおれてゆく。

たおれた体のあたりから、河の流れが朱色にそまってゆく。

(え、うそ、ほんとに殺し合いするの)

大河ドラマには、合戦のときでも、こんな残虐なシーンはない。

佐藤直子は、混乱した。

ここはいったい、どこなの、いつなの、私はなんで、こういうものを見ているの、「千手観音?」「利息?」なにがなんだか、さっぱりわからない。

河の向こうの集団から、一本の矢が発射された。

その矢は、東からの突風にあおられて、本来の目標から大きくはずれたようだ。そして、佐藤直子が気がついたときには、自分の目の前に矢が飛んできていた。

よける時間もない。

(ひいい、あたっちゃう、あたっちゃう)

こちらに向かって飛んでくる、矢の先に、とがった鉄の、本物の矢尻がついているのが見える。

ささったら死ぬ、と佐藤直子は思った。

(ひいい、たすけて神様)

と思ったそのときに、目がさめた。

直子は、がばっと、ベッドのうえに、跳ね起きた。
はあ、はあ、と、息が荒い。じとーっと、額から汗がたれていくのがわかる。

一息ついたら、まわりを、きょろきょろと見回した。

毎朝、見慣れた、自分の寝室だった。

いつもと同じ、やさしい朝陽が、室内をあかるく照らしている。

直子は、ほっ、と安堵のため息をもらす。
「やっぱり夢だった、夢でよかった」
どっと、つかれた。せっかくの新入社員としての通勤初日に、なんてひどい夢を見るんだろう。



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