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(注)この小説はフィクションであり、現実の人物、団体、法人には一切かかわりがありません。
「千手観音の慈悲により、私たちの後継者に伝える。 千手観音の教えは、無限の時間の中で、幾度となく邪悪と対峙し、あるときは勝利をおさめ、あるときは敗北した。 あるときは、一文明圏を支配し、あるときは異端として追われた。 無限の輪廻の中で、われらと邪悪とのたたかいは、形を変え、 人を変え、言葉を変えて、終わることなくつづいてきた。 これから幾千年もまた、つづいてゆくのであろう。 私たちの、邪悪にたいする戦いの歴史を、語りついでゆこう。 永楽通宝が世界を支配してしまわないうちに。 私のかしこき後継者に、さいわいあれ。」
(千手観音?) そういえば、今朝の夢の中にも、たしか、そんな言葉が出てきていた。 やだ、思い出しちゃうじゃない…。 それにしても、変な本。なんかの宗教の勧誘みたいね。誰の本? そもそも、なんで、こんなのが控室にあるわけ? キャッチセールスってやつ?ちがうか。直子が、反発を感じていたところに、ドアがノックもなしに乱暴に開かれ、くたびれた背広を着た、40歳代と思われる男性があらわれた。 「おはようございますっ」 直子は、新入社員らしく、さっ、と起立して訪問者を迎えた。 「きみ、新人研修の子?」 男性は、左手でドアのノブを持ち、半身しか室内に踏み込んでいない状態で、視線だけ動かし、値踏みでもするかのように、直子の顔から、胸元、腰のあたり、そしてふくらはぎを通って、足先までをじろじろと、ぶしつけにながめた。 「はい、さとう、なおこともうし…」 「時間ないけん。ついて来てや」 直子の自己紹介が終わるのを待たずに、男性は、早口の関西弁で命じて、そのまま早足で廊下の遠ざかろうとする。 男性が手をはなしたので、自然とドアが閉じようとする。 直子は、あわててドアにかけより、男性を追う。 「すいません、せんぱい、自己紹介させてください。わたし、佐藤直子ですっ」 ほとんど走りながら、直子は、男性の背中に向かって、まくしたてる。 「おれは大道寺いうねん。債権回収担当や。いまから現場行くけん」 男は、振り返りもせずに名乗った。 歩く速度を、ゆるめようとする気配すら、ない。
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