連載小説サラ金対新人OL
(注)この小説はフィクションであり、現実の人物、団体、法人には一切かかわりがありません。
第五回 債権回収
直子が、車内での小一時間で、大道寺の言葉の断片をつなぎあわせて得た情報を総合すると、
自分たちが四菱ファイナンスの融資先である工場に向かって移動していること
工場を経営しているのは村本製造株式会社という会社であること
村本製造株式会社は社長夫婦の他に社員5人の零細企業であること
工場は先月末から利息の支払いをしていないこと
工場の経営者である社長は先週に「借りている金はかならず返す。かたいアテがある」という連絡を入れたきり行方が分からなくなっていること
ということが分かった。
「着きました」
運転手の渡辺が車を停めた。渡辺、大道寺、直子は、それぞれ、無言で車を降りる。
村本製造株式会社、という表札がかかげられた家は、ちょっと大きめの民家であった。大道寺は、玄関扉の横にある呼出ブザーを数度押したが、反応がないことを確認したあと、勝手に玄関扉をガラッと横に開けた。鍵は、かかっていなかった。そのまま、大道寺は、靴をぬがずに、土足のまま、玄関から廊下にあがった。
「ちょ、ちょっと、先輩…」
あわてて、直子が小走りで駆け寄った。大道寺は、直子を振り返り、にやっ、と、少し意地の悪そうな表情をした。あきらかに、新入社員を値踏みしようとしている。
そうである以上、直子は、考えなければならなかった。
呼出ブザーを押している以上は、無断で住居に侵入しているわけではない。鍵もかかっていなかった。土足で上がるというのは、まずい気もするが、しかし、これは取り立てである以上、事態の急変には常に備えないといけない。たとえば、追い詰められた債務者が、刃物などを振り回した場合、即座に退避する必要もありえる。また、債務者が勝手口から逃亡した場合には追跡する必要もある。靴は、手放せない。
また、呼出ブザーを数度押して反応がないのだから、可能性は二つ。一つの可能性は本当に誰もいないこと。それならば、土足をとがめだてする人間もいない。もう一つの可能性は、居留守を使っていること。それならば、発見された債務者は心理的に追い詰められている。土下座をするか、逃げ出すか。いずれであっても、そういう状況で土足をとがめだてするような、冷静な対応は、ありえない。
そこまで一気に考えて、直子は、自分も土足で廊下に上がった。携行していたバッグの中から、薄手のゴム手袋を取り出して、両手に装着した。
「手袋まで、よく持ってたな」
大道寺は、ちょっと感心したようだ。
「昨日いただいた、マニュアルに書いてありましたから」
「そうする理由は?」
「家探ししても、指紋を残さないため」
「話しが早い。じゃあ、かかれ」
「了解っ!」
直子は、まず、手近の部屋から探そうと、ドアのノブに手をかけた。そのとき、ドアに、人形のような、おもちゃのような、なんらかのお守りのようなものが、ぶらさがっていることに気がついた。
なぜかは分からないが、なんとなく気になって、直子が立ちすくんでいたところ、
「オマモリさん、やな」
渡辺が、直子に声をかけた。
「オマモリさん?」
直子は、初めて聞くモノであった。
「おれは、迷信はキライや」
大道寺は、侮蔑するように言い、一人で二階に向かう。あとに、直子と渡辺が残された。
「渡辺さん、オマモリさんって…迷信っていうのは?」
「オマモリさん、て、この地方だけで信じられとるからなあ。
昔、ちょうど戦国時代のころ、この地方で、悪い神さんがあばれたことがあって、悪い神さんは、悪い病気を広めたんや。ほんで、悪い病気で、いっぱい人が死んだんやって。ほんで、オマモリさんを置いたら、悪い神さんが出入りせんようになって、病気も治って、人も死なんようになったって。
今では、借金のある人を守ってくれるお守りやってことになっとる」
「へえ…」
(私が、なんとなく部屋に入りづらいと思ったのは、オマモリさんが、借金のある人を守ったからなのかな?)
そう思いながら、今度こそ、ドアのノブに手をかけて、開いた。中には、誰もおらず、また、人の気配はまったくない。正直、ホッとする気持ちの方が大きい。
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