連載小説サラ金対新人OL
(注)この小説はフィクションであり、現実の人物、団体、法人には一切かかわりがありません。
第七回 みにくい真実
「貴子へ」
(貴子ってのは、たしか、村本社長の奥さんだわ。ということは、これは、村本社長から奥さんへの手紙、ね)
直子は、車中で、ちらちらと目を通した、村本社長の個人データを思い出しながら手紙を読み進める。
「ぼくは、もう、つかれた。
借金は、いくら返しても返しても、なくならない。
先月の売り上げは、120万円だったけど、利息の支払いが150万円だった。
材料の仕入れ代が最低でも50万円はかかるから、人件費を払う前に、もう赤字になっている。
借りたものを返すのは、当たり前だから、がんばってきたけど、3年前から、利息だけを払うために仕事をしている。お父さんから受け継いだ貯金が1000万円あったけど、それも、先月に全部利息に支払って終わった。
でも、1億円の元金は、一円も減っていない。」
直子は、読み進めながら、すごくいやな気分になってきた。気分が悪いのは、車酔いではないだろう。
手紙の字は、だんだんと、乱雑になってくる。
「貴子は、弁護士と相談して自己破産しろって言っていたけど、そんなことはしたくない。貴子は、やっぱり、他人事だから、気軽に弁護士に相談できたんだよ。
でも、ぼく自身のことだから、重すぎる。
前から言っていたけど、全部返すという形で、全部を終わらせたい。
ゆう子の高校の入学式には行きたかった」
直子は、しばらく、じーっと考えた。
直子は、昨日、徹夜で勉強した債権回収マニュアルを、一つ一つ、思い起こしていた。
何度も考えたが、やはり、この可能性しかないのだろう。
とてもイヤな結論だが、これしかない。
全部返す、という形にするには。
「すいません、大道寺先輩、警察のほかに、保険会社に連絡する必要は、ありますか?」
直子がたずねたのは、分からなかったからではない。
確認のためである。
そして、できることならば、自分がもった、この考えを、大道寺に、否定してほしかったのである。
「ああ、それは、本社の方ですることになっとるけん、おれらは、せんでええ。おれらは、警察に仕事してもろたら、ええんや。書類つくってもろうたらええんや」
大道寺の返答に、直子は、暗澹とした気持ちで、自動車の外、流れる景色をみた。
川沿いが近く、視界がひらけている。
(村本社長は、自殺したんだ)
直子は、そう結論づけた。
1億円の借金を、お金のあてのない多重債務者が「全部返す」には生命保険の保険金しかない。四菱ファイナンスの債権回収マニュアルには、個人事業主の場合には、借金と同額の生命保険に入らせることになってる。
おそらく、四菱ファイナンスは、村本社長に融資をするにあたり、1億円の生命保険に入らせたのだ。そして、その生命保険に質権を設定する。
そうすると、村本社長が自殺をした場合、保険金は、村本社長の遺族にではなく、四菱ファイナンスに支払われることになる。
たしか、工場の経営者である社長は先週に「借りている金はかならず返す。かたいアテがある」という連絡を入れたきり行方が分からなくなっている、ということだった。
たしかに、かたいアテだろう、生命保険会社は。
行方が分からなくなったのも当然だろう。彼は、この世にいないのだから。
「ゆう子」さんというのは、たしか、村本社長の娘さんだ。ゆう子さんの高校の入学式に出たかったけど行けないのは、そのときには、自分が死んでしまっているから行けないんだ。
大道寺が言う警察が作る書類というのは検死調書のことか。
ところで、ふと、この手紙をみたときの、大道寺の言葉が気になった。
大道寺は、この手紙を見て「目的達成」と言った。
(そうか…今日、あたしたちは、債権の回収の目的に来たんじゃないんだ。村本社長が、死んだのかどうかを確認する目的で来たんだ…そして、あたしは、その証拠を発見した。目的は達成したから、合格点はもらえるよね、五鬼上さんから)
窓の外を見ながら、涙目になってきた。
「先輩、こういうことは、多いんですか」
大道寺は、しばらく答えなかった。おそらく「こういうこと」という意味を、直子が正しく認識しているのかどうか、考えたのであろう。どのレベルで認識しているのか、と。
しかし、直子は、さきほど、保険会社の話をした。手紙には保険のことは何も書かれていないにもかかわらず。だとすれば、直子はすべてを正しく認識しているのだ。大道寺は、そう考えたはずだ。
大道寺の返答は、とても小さな声で、ほとんど、つぶやきであった。
また、その内容も、端的な回答が常の大道寺に珍しくも、問いに対する回答になっていなかった。
直子には、こう聞こえた。
「三人目くらいからは何も考えんようになるけん楽やねん」
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